クリスの境遇
#10
父親は、バイオリニストの雪音 雅律。
母親は、声楽家のソネット・M・ユキネ。
NGO活動団体に所属していた両親は、幼いクリスを連れて、
政変以来、国交の途絶しているバルベルデ共和国へ、グアテマラを経由して入国し、
各地で公演を行いつつ、難民救済を目的としたボランティア活動を行ってきた。
当初は国連の使節団とともに行動していたのだが、
拡大する戦線に巻き込まれて、NGO活動団体は現地に孤立、行方不明となる。
その後まもなく、雅律とソネットの死亡が確認され、
時を経てクリスは、フィーネに利用される形で帰国となる。
一般的、同年代的な少女たちと比較してはもちろん、
F.I.S.の白い孤児院で隔離されて暮らしてきた調や切歌たちと比べても、
極端に狭い人間関係のなかで成長してきたクリスは、
他者との繋がりに対して、
ある種の「恐怖」と言ってもいい程、慎重になってしまう傾向がある。
響たちとの出逢いによって、
差し伸べてもらった絆を尊いものと考えると同時に、
自分から誰かに差し伸べる手はいつもぎこちなく、その事実がクリスの心に影を落とす。
新しくできた後輩たちに対して、
「先輩」であらねばという思いに懊悩し、自問自答を繰り返してきたクリスであるが、
その答えは自分の中に無く、知らず下に置いていた後輩たちによって気づかされる。
誰かを受け入れる事も絆と知ったクリスに、
誰かと繋がることに覚えたかつてのような「恐怖」はなく、
その瞬間、世界と自分を隔絶していた壁が一気に取り払われる。
それは同時に、歌で世界に平和を望んだ両親の想いを理解する事でもあった。